猫と音楽

我が家のアメショーと黒猫、二匹との生活や音楽についてのブログです

黒猫が鼻チューさせてくれた日

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猫とのコミュニケーションをとる際、皆様はどのようにされているでしょうか?

もちろん『撫でる』『お腹をもむ』『寄り添ってピタっとくっつく』など一般的な方法はあると思うのですが、その中でも我が家で割と行われる挨拶のひとつが

 

鼻チュー

 

です。もうこれ読んで字のまんま100%な行為なんですけど、人間の鼻と猫の鼻をくっつける挨拶です。どうも猫にとっては割と親愛を表現する挨拶らしいのですが、僕は朝に1回、多分妻は日中に十数回ほど、この『鼻チュー』によって、猫たちと親睦を深めております。

 

この挨拶をする我々夫婦を、いつも羨望の眼差しで見ていたのが我が家の息子(現在小学2年生)でした。彼は当初、猫という生き物を恐れていました。

 

もうかなり幼い頃の話なんですが、親の真似をして、アメショーを撫でたところ軽くひっかかれたトラウマが蘇ってくるようです。噛まれてしまうのではないか。引っ掻いたりされるのではないか。そんな疑念が拭えなかった彼は、猫の至近距離に顔面を差し出す行為に恐れを抱いておりました。

 

アメショーに鼻チューがしたい幼稚園児

息子がまだ幼稚園生の頃でした。その頃から彼は、両親が行う「鼻チュー」に強い憧れを抱いていたようです。そうですね、親がやる事はなんでもしてみたいって思うような年齢ですからね、無理もありません。

 

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警戒心ゼロのアメショー

 

いつも通りソファの上に眠っているアメショーを見つめて言うのです。

「僕ちょっと鼻チュー出来る気がするんだよなあ」

 

そうかそうか、じゃあやってみるといいよ。撫でるのは平気なんだから大丈夫だよ。僕は彼の直感を尊重します。

 

ただですね、相手はあの気まぐれ猫のアメショーです。

万が一眼球にダメージがあるような事があったりすると困りますので、策を講じます。嫌がる息子に僕のサングラスをかけさせて、「ほら、これなら目も安全だから」と言い聞かせます。

 

作戦決行

それでもおっかなびっくりな息子は、往年の女性ボーカリストのようなサイズの合わないサングラスをかけたまま、顔面を眠っているアメショーに近づけます。

彼的にはかなり思い切った至近距離のようですが、傍から見ている分には「まだまだ」な状態です。

 

ふいにアメショーが目を覚ましました。

 

サングラスをかけた息子に気付いたアメショーは、「誰?」とでも言いたそうな目で息子を見つめると、顔をぐぐっと伸ばして来ました。そして、そのまま息子に鼻チューをしたのです。

 

「ひゃあああ」とか変な声をあげて、息子がのけぞります。お分かりでしょうか? まだまだ恐怖心の拭えなかった息子は、サングラスの下で目をつむっていたのです。突然鼻っ柱に感じた、湿った猫の鼻の感触で驚いたようでした。

僕が「おお、できたじゃん!」とかそんな賛辞を送ってみましたが、しばらく彼は茫然としままでした。

そしてアメショーの方は面倒くさそうにそのまま昼寝のつづきを始めました。

 

次なる難関

人間不思議なもので、一度超えたハードルをもう一度超えるのは簡単だったりします。

その日以降、息子は毎朝の日課としてアメショーに鼻チューをすることとなりました。アメショーは面倒くさそうにしておりましたが、それでも拒否するようなことはありません。幼児の儀式に付き合ってくれたあたり、やはり色々理解しているようです。

 

そうなるとですね、自信をつけた彼(息子)は次のハードルを越えようと目論見ます。

次々に新しい目標設定をしたくなるような向上心。僕にもそんな時代があったのかどうかはもう忘れましたが、とにかくそんな事を決意したのです。

 

彼は黒猫への鼻チューを試行しようとしていました。

しかしですね、アメショーへの鼻チューが難易度Bあたりだとすれば、黒猫のそれは確実にSクラスの高難易度です。

 

臆病な黒猫

そもそもの話になるのですが、『黒猫は子供が嫌い』です。

彼が野良出身なことが何らかの影響を与えているのだろう、と勝手に想像しておりますが、昔から息子には近づかないように生きているように見えます。

 

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子供は嫌いなのですが、大人には甘ったれな黒猫です。

 

どんなにだらしない恰好でフローリングの床暖の上で寝ていたとしても、息子のたてる物音には敏感に反応します。アメショーを撫でることに成功して味をしめた子供が、ちょっとでも近づくとすすっと距離をとるのです。

 

意地になって追いかけられようものなら、黒い巨体を揺らしながら、『人間の手の届かないところ』へ避難します。ベッドの下の最深部だったり、はるか頭上の冷蔵庫の上だったりといった、黒猫のセーフティゾーンです。

そんな危機管理意識の高い猫に、息子が鼻チューが出来るとは到底思えませんでした。

 

寝こみを襲う息子

その日の事は割と記憶に残っています。

妻(つまり彼にとってのママ)は、保護猫の世話をする為に別の部屋に行っていました。つまり僕と息子だけがリビングでのんびりと過ごしていたのです。

 

突如息子が、いつになく真剣な顔で僕に何かを訴えます。「ん?」と思って彼を見ると人差し指を顔の前にたてて「しーっ」とジェスチャーで訴えているところでした。わかったわかった、何も音をたてないぞ、と目線で訴えます。どうやら通じたようです。

 

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寝こみを襲われた黒猫

 

息子は床にペタっとなっていた黒猫に向かって、四つん這いになりながら近づいているところでした。音をなるべくたてないようにそろりそろりと距離を詰めています。

「そうか、黒猫の寝こみを襲って鼻チューする気だな」

と気づいた僕はそのまま暖かく見守ります。だらしなく眠りこけている黒猫に、出来の悪いほふく前進で近づく息子。緊迫した時間がつづきました。

 

「やったー!」

 

息子が大声をあげます。どうやら、黒猫の鼻と自分の鼻をつけあわせることには成功したようですが、大声を聞いた黒猫は寝起きとは思えない瞬発力でバックジャンプしました。

「ねえパパ見てた? 見たでしょ? 黒猫ちゃんとも鼻チュー出来たんだよ」と小躍りしている幼児のもとから黒猫が素早く距離をとっていくのが見えました。

 

誤回答

ここでですね、僕は痛恨のミスをします。これ、今でも後悔してるんですけど、僕のささやかな人生の中でも「あれはミスるべきじゃなかった」ランキングの上位に入る間違いです。

 

「え? ちょっと良く見えなかったなあ」

 

正直に僕は言いました。これがいけなかったのです。どうして、「見た見た、黒猫ちゃんと鼻チュー出来てたねえ」と言わなかったのでしょう。あの時の僕バカバカバカ。そんな気持ちでいっぱいです。

 

息子はひどく悲しそうな顔をしています。「ホントだよ、ホントに出来たんだよ」と必死で訴えます。わかったわかった、別に疑ってるわけじゃないぞ、ちょっと見えなかっただけなんだよ、と答えましたが、彼は運命の瞬間をパパが見てくれなかったことに、ひどく傷ついているようです。

この時点でやっと僕は自分の犯したミスの深刻さに気付いたというわけです。

 

「もう一回するから! 今度はちゃんと見ててよ!」とムキになっている息子ですが、時すでに遅し、寝こみを襲われ、耳元で大声をあげられた黒猫はどこかへ避難してしまったようで、姿が見えません。黒猫ちゃーんと呼ぶ息子ですが、見つかりません。多分ベットの下とかソファの下とかそういう場所に行ってしまったのでしょう。

 

彼は目に涙を浮かべます。そしてそういったタイミングで妻が戻ってきます。何かの糸がぷつりと切れたかのように「ママ! パパがちゃんと見てくれなかった」と泣き出した息子。何がどうなったのかわからず困惑する妻。どうやって説明しようか悩む僕。なんともカオスな時間がやって来ました。

 

泣く子をなだめながら妻にことのあらましを説明すると「なんて機転の利かない男なんだろう」という視線を浴びるほど頂戴しましたが、黒猫は戻っては来ません。ああ、なんというミステイク。

 

 黒猫が鼻チューさせてくれた日

息子まだ幼稚園児だった頃の、こんな話を突然思い出したのには理由があります。今朝の話です。

 

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まだ完全に警戒しなくなったわけではなさそうですね

昨晩の深酒のせいでリビングで眠りこけていた僕は、息子が起きてきた物音で目が覚めました。

「パパ、そんなところで寝てるとママに怒られるよ」と、ありがたい忠告をくれた息子。僕は「いつの間にか身長もずいぶん伸びたんだなあ」とすっかり少年になった姿を目で追っていました。

 

「はい、おはよう。アメショーちゃん」とアメショーに鼻チューをします。

「はい、おはよう、黒猫ちゃん」と黒猫にも普通に鼻チューをしました。黒猫は見てわかるくらい体をこわばらせていましたが、拒否することはありませんでした。

 

少し驚きました。いつから黒猫にも鼻チュー出来るようになったの? と聞くと息子は「ずっと前からだよ、パパなんで知らないの?」と笑いながら教えてくれます。

「まだ時々逃げちゃうこともあるんだけどね、結構逃げないんだ」と、猫を撫でる姿を見てもう一度思いました。大きくなったなあ。

 

彼は初めて黒猫に鼻チューをした日、つまり僕がそれを見ていなくて泣いた日の事を覚えているのでしょうか? 気になって訊いてみようと思ったのですが、なんとなくやめました。寝起きと二日酔いで面倒になったのかも知れません。

コーヒーを用意し、とりあえず顔を洗おうとしている僕に息子が言います。

 

「そうだよね、パパ、初めて僕が黒猫ちゃんに鼻チューしたとき、見ててくれなかったんだよね」

 

しっかり覚えているようでした。

親の僕でも驚くくらい成長している息子、彼の過去を思い出すと、いつも猫たちが一緒だった気がします。

そんな記事です。

 

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