いったい自分が何歳くらいから一人で寝るようになったのか、記憶にありません。
自分の場合だと下に兄弟がいたので、『子供たちの寝室』に兄弟で寝ることになっていました。じゃあそれがいつからだったか、と言われるとやはり曖昧です。むしろ親と寝た記憶がほとんどなかったりします。
さて、一人っ子の我が子ですが小2の今現在も、基本的にはママと一緒に寝ています。と言っても寝つきのタイミングだけで、寝息を確認すると妻はリビングに戻ってきます。つまり、一度寝入ってしまった後、しばらくは彼は寝室でひとりっきりの状況です。
子供の夜泣き
育児をされた方ならほとんどの方がご経験されている事だと思うのですが、子供の夜泣きには相当手を焼きました。
「お、やっと寝た」と全神経を集中させて音をたてずにその場を離れても、数分後には泣き声が聞こえてきます。その度に(主に妻、いや、ほとんど妻でした)息子の傍に戻り、背中をさすったり声をかけたりします。
いったいこのパターンはいつ頃終わるのだろう、と育児経験がなかった我々は途方に暮れたりしました。
双方に余裕がなくなり、夫婦仲が険悪になった要因にもなったりしました。
極まれに、幼少期から『朝までぐっすり寝るタイプ』のお子さんもいらっしゃるようですが、息子に関してはまったく逆でした。寝つき初めから、2時間の間に10回以上呼び出しをくらったこともあるようです。そりゃ、妻の機嫌も悪くなるなあ…。
夜中に目が覚めた息子
そんな時代も遠く過ぎ去り(実際はそれほど遠くないのですが)、なかなか頼もしく朝までぐっすりと寝てくれるようになってきた一人息子ですが、ある日気になることを言います。
「僕さ、なんか寒いなあって思って夜中目が覚めたんだ」
ほう、と思いました。「隣に親がいないけど、よしもう一回寝よう」と思うくらいには成長したのかな? と理解したわけです。
「真っ暗で、誰もいないから寂しくなっちゃって、ママかパパのことをおっきい声で呼ぼうと思ったんだけど、足のところがあったかかったから大丈夫だったよ」
全く意味がわかりません。寂しいけど足が温かいから大丈夫ってどういうことだ?
その頃息子は、何かのイベントで体験した『肝試し』のせいで、異常なほどの怖がりになっていたのです。そんな彼が『大丈夫』になるという温かさってなんだ? と不思議で仕方がありませんでした。
その正体はアメショー
当然、子供の説明を詳しく聞くことにしました。何がどうしてあったかいんだ?で、何が安心材料なんだ? と。
「だってさ、アメショーちゃんがいてくれたんだよ」
彼の断片的な説明をまとめると、どうやらこういうことのようでした。
寒くて夜中に目が覚める。
→ 真っ暗でとても怖い、父母を大声で呼びたい。
→ あれ、太もものところあったかいぞ。
→ あ、アメショーちゃんがいる!
→ アメショーはミャアと声をあげてその場から動かない
→ 猫を撫でてみる。何か安心した。
→ 冷静になって布団をかけなおしてもう一度寝れた。
これ全部が100%の事実だとすると、アメショーは良い仕事をしたことになります。
僕のことをガブガブ噛みついたり、人の寝具を毛だらけにするだけの生き物ではなかったようです。寝ている息子に寄り添って、ただ寝ていただけなのかもしれませんけれど、結果としてはちゅーる4日分に相当するくらいの働きには違いないでしょう。
猫と眠ると安心できるのか?
妻にそのことを話すと、「猫と一緒に寝るとあったかくてすごくいいよ」とのことでした。元々夫よりも猫を愛する彼女が否定的な意見を言うわけはなかったので、聞くだけ無駄だった話です。ええそうです、ただの確認です。
「今度、僕くんも一緒に寝てみたら?」
と提案をいただきましたが、前提としてアメショーは家族の中で僕のことだけは「噛みついても良い人間」と認識している節があります。
アメショーと一緒に布団に入っている自分。
少し想像してみたのですが、こんなに緊張感のある睡眠では、とても安心できないような気がしてきました。不発弾を抱えて眠るようなものです。
「冬とかあったかくていいんだよねえ、ただ、彼ら気まぐれだから途中でどっか行っちゃうことが多いけど、絶対おすすめだよ」と妻はしつこく勧めてくれましたが、丁寧に辞退させていただいた記憶があります。
夜中に泣き出した息子
とまあ、そんな話があって、アメショーが近くにいたら息子も安眠出来るんだなあなんて思ったりしていました。
しかしですね、ある日の夜長男の叫び声に似た声が、突然寝室から聞こえてきたのです。そして、その声と同時に切羽詰まった様子の黒猫がリビングに飛びこんできました。ただならぬ事態を感じた僕たち夫婦は、寝室にかけこみます。
どうした? 息子よ!
布団の上に座りこんで泣いている彼を落ち着かせながら、話をきいてみます。
どうやらですね、今回は怖い夢を見て起きてしまったらしいのです。お化け的なものに追いかけられたそうなんですが、詳細は不明です。そしてはっと目が覚めます。ああ、良かった、夢じゃなかったんだ、ここは自分の家だ。
しかし、暗がりの中に光るものが見えます。寝ぼけた息子は気づきます、アレは目だ。家にまでおいかけてきたんだ。
こんな感じで、恐怖のあまり泣き出した、というのが真相でした。
黒猫への濡れ衣
もちろん、息子が見て恐怖したのは黒猫でした。暗い寝室で彼の金色の目だけがギラギラと光って見えたわけです。彼(黒猫)の立場からだとこんな感じでしょうか。
小学生の息子のことは苦手 → ベット広いからちょっと距離をとって寝よう → お、この子供目を覚ましたぞ → え? 僕を見て悲鳴? → 怖い、逃げろ!
簡単に予想がつくのですが、野性味ゼロ。無警戒に生きているアメショーはペタっと人間にくっつくことに抵抗がありません。一方黒猫は警戒心の塊のような猫です。更に子供というものを特に苦手としています。ですので、距離をとって寝たはずです。
今回はそれがあだとなり、暗闇に目だけが輝くように見えたのでしょう。ああなんという濡れ衣。
猫は守り神(ってことにしよう)
翌朝、息子にひとつ説明をすることにしました。いつか大きくなったときに「嘘じゃん」と思われても仕方がありませんが、こんな説明です。
「沖縄に旅行に行ったときにシーサーっていたの覚えてるだろ。みんなを守ってくれる生き物なんだけど、猫たちと同じ祖先なんだ」
※ シーサーは獅子のはずなので、あながち間違ってないかも。
「だから、黒猫ちゃんもアメショーちゃんも、全然怖くない。守ってくれてるんだ、むしろ近くにいてくれたら安心していいんだぞ」
息子は少し考えこんでから「そうなんだ。二匹共守り神だったんだ」と納得してくれました。途中『祖先』の意味を聞かれましたが、『同じ志をもった関係』とかそんな適当な事を言った気がします。
熱心に僕の口八丁を聞いてくれるその様子に、少し心が痛みましたが、そういうことにしました。今度暗い部屋で光る眼みたいなのが見えたら、ちゃんと黒猫ちゃんかどうか確認する、とのことです。
そうです、父親の詭弁で一件落着となったのです。
今、この文章を子が寝た後のリビングで書いています。
昼夜の寒暖差が激しいので、息子の様子を見に行ってみました。
アメショーはいつも通りリビングのソファの上におりましたが、黒猫は寝室にいました。寝相の悪い息子から1メートルくらいのところに距離をとって、(見ようによっては)本当に息子を見守るように眠っていました。
案外、彼らなりに本当に見守っているのかも知れません。
そんな記事です。
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